『住まいの備忘録』第5回 〜設計することの喜び〜

信頼に応え、理想的な関係に

(社)日本建築家協会 沖縄支部 幹事 大嶺 亮(ファイブディメンジョン)


今春、老夫婦のための住宅が完成した。
 住宅街で隣近所と近接した敷地での建て替え工事だった。人生の先輩ある施主は間取りについて今まで生活していた経験から、いろいろな要望を持っていた。
 私達は施主の希望するプランと、施主にとってより良いと思う案の2パターンを提示した。打合せの後しばらくして、私たちの案を採用するという連絡があった。理由を聞くと、自分たちは素人であり、プロの方々が良いと思う考えを受け入れて、出来上がりを楽しみにすると言われた。提案した案は、リビングなどの家族が集まる場所を2階に設け、将来の不安解消にホームエレベーターを設置するという、施主の思考の柔軟性に感謝しつつ、信頼を裏切らないためにも最善を尽くそうと気を引き締めた。
 打合せは施主の自宅で行われ、毎回手作りのお菓子や食事をごちそうになった。打合せ自体は設計者の考えを尊重するということで、使い勝手に関する細かい要望のみでスムーズに進んだため、いつしかおやつを楽しみに打合せに行く感じになった。
 工事が始まるとご主人は毎日朝夕と工事を見学していたが、作業の邪魔になるからと現場の中には決して入らなかった。後で奥様に聞くと休日などにこっそり中に入り、仕上がりを楽しみにしていたそうである。
 大きな問題もなく順調に引渡が出来た住宅に、最近お披露目の食事会にお呼ばれした。その時に外部の手すりやポストがピカピカに磨かれていることに気付きうれしいと伝えると、施主は「みなさん(施主者も含めて)が丹精込めてつくりあげた建物をきれいに維持する事は施主の義務です」と言われた。
 この住宅では、施主が設計者を信頼する、設計者は信頼に応えるためにがんばり、良い物を引き渡す。それを施主は喜び手入れに精を出すという理想的な結びつき構築することが出来た。設計は損得勘定ではないこういう経験が出来るからやめられない。