『住まいの備忘録』第3回 〜龍譚通りの狭小住居〜

縦型重層の室内に穴を穿ち、光を導く

運天 浩(株)myu設計)


今から3年前に首里龍譚通りに竣工した建物である。近くで住宅を建築中の施主の紹介で依頼を受ける事となった。
 敷地は間口が4m、奥に16mと細長く、前面、後面に道路があり、前後の高低差が4mもある。さらに龍譚通りの道路拡張に伴って残地面積が70㎡程度しか残らない狭小な敷地に、家族5人が生活できる空間を創ってほしいとの事で計画がスタートした。
 要求される部屋の数に、駐車スペースもほしいとの事で必然的に部屋を積み上げた縦型の住居を計画していく中で、光・風をうまく取り入れながら狭さを感じさせない明るいスペースを創ろうと思った。
 建物中央部に4層の吹抜空間を配して、両端に部屋を振り分けたゾーニングとし、両端の部屋をつなぐ通路を階段でスキップさせて、上下の移動を軽快にする事と、吹き抜けた空間のおかげで下階のリビングからも家族の動きが容易に視認できる。
 前面道路と後面道路の段差をうまく利用することで、駐車スペースも確保する事が可能となり、さらにリビングより半階落として、高さ1.4mの書斎空間を押し込んだ。
 座して使用するこの部屋は意外と使い勝手もよく、ご主人の趣味室として、また、光を絞り込んだ室内は適度に落ち着いた空間となり、ご主人の昼寝等にも利用されている。
 前面の龍譚通りが景観指定地域のため、屋根を勾配にする条件から必然的に天井の高い空間が生まれる最上階を個室にあて、その上部にロフトを設けて空間を最大限に利用した。
 吹抜に張り付いた階段を登りきると、遥か西の東シナ海上に慶良間諸島を眺めることのできるルーフラテスが設えられている。観月会など家族がアウトドアでも集える都市のなかではなかなか手に入れる事のできない贅沢な場でもある。
 その土地に継承して住んできたクライアントに狭小な敷地でも、施主の要求する課題に、段差から生じる余白を最大限利用し、上部から光を落とす吹抜空間が下階まで光あふれるスペースを生み出し、快適な都市型住居を実現できたことに施主も大いに満足し、設計に携わった者なりに最適な提案が出来たことはとてもよかったと思う。