会報『かぬち』

会報『かぬち』創刊号(1998年4月発行)
第1回 卒業設計作品選奨

  部門 学校名 指名 作品名
大 学 設計 琉球大学 矢口卓行 WHERE AM I ?
  論文 琉球大学 大城桂子 今帰仁村の神アシャギ
に関する研究
専修学校 設計 パシフィック
テクノカレッジ
呉屋敦子 ウサギ保育園
      宜保 敦 Source Scenery
(源風景)
      友利 敦  
      赤嶺早苗  
  設計 沖縄建設学院
デザインスクール
金城辰史 街のへそ「遊び庭」
      呉我直子  
      島袋安祐子  
  設計 インターナショナル
デザインアカデミー
周 建伸  
工業高校 設計 県立沖縄工業高等学校 米須和香子 Aqua or Planet
  設計 県立沖縄工業高等学校 名嘉山綾子 図書館
  設計 県立美里工業高校 玉城亜季 市民会館
  設計 県立美里工業高校 濱崎 踊 美術館

建築系学生の意識の高揚と地域文化の発展のため
教育研修委員会 永山 盛孝

沖縄支部発足時の新規事業としてスタートした卒業設計作品選奨も予定通り審査を終え、紙上に優秀賞9点を発表するところまで終えることができた。「建築系学生の意識の高揚と地域文化の発展のため」を命題に掲げたこの企画は、JIAが地域に根差した活動をしていく大切な事業として位置づけられ、教育研修委員会としては出足の遅れを取り戻すために、性急にコトを進めていかなければならなかった。そのために当会の主旨をよくご理解頂き、日程の調整に努力して下さった学校側や資金的にも多大なご協力を頂いた協賛各社、そして審査のため遠方から駆けつけてこられた由良先生をはじめ他の先生方に厚くお礼を申し上げます。  ここで担当者として今年度のこの事業について反省と感想を述べてみます。まず厳しいタイムスケジュールの中であっても実施期間を早めて、応募者である学生、生徒達が卒業する前に入選発表をすれば賞の公用も倍加するものと考え、2月27日に応募を締め切り、3月1日発表と決めたが、国公立の短期大学や高校のスケジュールに少し無理があり一部応募ができなかったことが残念であった。次年度は最も卒業の遅い学校に合わせて提出期限を設定すべきではないかと思う。  この賞に対しては学校関係者から大いに歓迎されよい評価を受けている反面、危惧すべき現象として、建築界全体に広がっている閉塞状態が建築を志す若い世代にも影響を及ぼしていることを進行する中で感じた。過去の歴史の中で今ほど建築と建築家が社会的に力を失った時代はないのではないか。高度情報化社会と経済のメカニズムの中で『都市や建築が見えない』現象が起こったら、『都市が一瞬にして廃墟』に変貌していく様を見せつけられ、建築学会賞を受賞した作品でも時代の急速な推移の前にその存在すら余儀なくされる『現代』に、果たして『モノ』造りを『天職』として生きていく価値があるのだろうか。その暗雲が近年の学生達に卒業設計という何の制約も受けずに自由に発表ができる『創造と提案』のまたとない機会を放棄し、論文を選択する傾向に走らせているのではないだろうか。いわゆる建築系学生の設計離れの現象である。モノ造りの手続きの煩わしさと、現実の社会の評価とを天秤に掛けた結果として、その煩わしい部分はCADやCGの中で仮想の現実として十分堪能し、燃焼し尽くせる今の時代にあって、現実の厳しさの中へ飛び込む勇気と気力を失いつつあるのではないかと思う。これは由々しきことで、我々もその責任を強く感じる。  入賞者の半数は女性であったことも特筆すべきことだと思うが、その中で、コラージュ風に手書きでまとめた作品は製作の過程を十分楽しみながらでき上った作品だと思う。この卒業設計作品選奨がその目的を達成するためには、我々自身が日常の活動の中で建築を地域の文化として定着させる姿勢を示さなければならない。そして若い建築家の卵達とモノを造る歓びと感動を共に味わえる環境をつくっていくことである。

作品講評
作品「図書館」名嘉山綾子 県立沖縄工業高等学校

建築が、与えられた敷地条件の中で、優れた機能を発揮することは必要条件ではあるが、この作品では、一見して平凡な建築の全体配置に対し、平面計画内容、規模や立面表現に、総合的かつ好感の持てる感覚を発揮している。

作品講評
作品「ウサギ保育園」 呉屋敦子

専修学校パシフッィクテクノカレッジ学院 CADの使用等建築表現技術の進歩は、一方で、建築の本質である空間の意味の探求を軽視する危険もある。その中でこの作品は、ストーリー性を感じさせる夢のある建築を求めて、それをコラージュ風の図面表現によって、独自の世界を創り出している。

作品講評
作品「WHERE AM I ?」 矢口卓行  琉球大学

都市の変容に対する、極めてコンセプチュアルな提案を行ったものである。建築は現実の多様な様相の容器であるとともに、その未来は必ずしもその延長上に位置しない。この作品は不透明な建築の未来に対する思索を基本として、現実世界の限界と、可能な選択の手順を示唆しようとしたものであり、かなりの部分見る者の側にゆだねられている。

作品講評
作品(論文)「今婦仁村の神アシャギに関する研究」 大城桂子 琉球大学

本研究は沖縄の神アシャギが、独特な形態を有していることに対する興味から出発して、現地での長期間の調査、聞き取りを通して、神アシャギが置かれる空間的、社会文化的な変化を明らかにしたものである。あまりに身近で、日常的ゆえに忘れがちな、優れて個性的な文化財が、今後どのように地域の中に継承されてゆくか、興味深いテーマを示している。 (文責:福島駿介)

作品講評
作品「ANALOG or DIGITAL」周建伸 

専修学校インターナショナルデザインアカデミー 植物や水の動きをモチーフとする造形がストレートに表現されているため、機械的には無理が多いが、建築の造形表現を強く主張する若者らい元気な提案である。建築を志す動機の原点を熱く語っているプレゼンテーションが楽しい。

作品講評
「Aqua Planet 21」米須和香子 

専修学校インターナショナルデザインアカデミー 自然環境や景観を考慮したコンセプトがビジュアルによく説明されている。計画のスケールや形も控えめでよいが、円形のステージ部分と他の施設との間に生じる外部空間をもう少し大切にデザインすればなお良かった。作者の学習意欲と若者らしい建築への情熱が伝わる作品である。 (文責:仲宗根恒)

作品講評
工業高校部門 作品「市民会館」玉城亜紀 県立美里工業高等学校

高校生にして、このような詳細にわたるコンセプトが成し得るとは驚きです。プレゼンテーションに於いても硬軟バランスが良く表現されています。オペラハウス様の屋根がうまく納まるのかは気掛りですが、全体としては「チョベリグー」な作品です。伸びてほしい。

作品講評
工業高校部門 作品「美術館」 濱崎踊 県立美里工業高等学校

「視点」を変える手続きはいつの時代にも大切なことです。いかにも高校生らしい自由で楽しい作品です。サザエ堂をイメージさせる展示空間は果たして来館者にどのような印象を与えてくれるのでしょうか。夢をあきらめないで!! (文責:西山庸二)

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